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浦和地方裁判所 昭和36年(行モ)1号 決定

原告 小野田高次 外二二名

被告 加須市教育委員会

主文

被申請人が申請人らに対し、昭和三六年八月三〇日付でなした申請人らの児童(別紙第二目録記載のとおり)のそれぞれ就学すべき学校を、埼玉県加須市立三俣小学校と指定する旨の処分の執行は、本案判決確定に至るまで、これを停止する。

理由

一、本件行政処分執行停止申請理由の要旨は、次のとおりである。

(1)  申請人らは埼玉県加須市に居住し、それぞれ別紙第二目録記載の各児童の保護者であり、被申請人は学校教育法、同施行令に基き右各児童の就学すべき学校の指定権者である。

(2)  申請人らは、被申請人の承認の下にそれぞれその児童を加須市立加須小学校に就学させてきたところ、被申請人は、申請人らに対し昭和三六年八月三一日到達の書面で主文に掲記するように児童の就学すべき学校を指定する旨の処分を通告した。

(3)  しかしながら、被申請人による右就学指定処分は、学年中途に、保護者の意思を無視して強制的に児童を他校に転学させようとするものであつて、全く法令の根拠を欠くのみならず、児童達が小学校一年に入学し既に一学期を終了し漸く教育環境に馴れ学友に親しむに至つた時に、突如として何ら首肯すべき理由もなく一方的に転学を命ずるが如きは、教育行政の目的に反しまさに行政権の濫用であり、しかもこの処分が加須市住民の一部の集団的脅迫の下になされた市教育委員会の議決に基くものであるからには、右就学指定処分には、明白且つ重大な瑕疵があつて、本来無効であるといわねばならない。

(4)  よつて、申請人らは浦和地方裁判所に右行政処分の無効確認を求めるため訴訟(当庁昭和三六年(行)第九号)を提起したが、その判決があるまでに右就学指定処分の執行を受けるときは、児童らはその生活と教育の上に著しい混乱を余儀なくされ、童心にぬぐい難い悪影響を蒙ることは必至であつて、児童の保護者である申請人らは、これにより償うことのできない損害を受けることとなるので、これを避けるため右処分の執行停止を求める。

二、本案訴訟が当裁判所に提起されたことは、本案訴訟の事件記録に徴し明らかであり、申請人らが被申請人の承認の下にその児童を加須市立加須小学校に就学させたところ、申請人らに対し申請人ら主張のような就学指定処分がなされたことは疏第一、二号証の各一ないし一二及び被申請人加須市教育委員会委員長内田仙太郎の審尋の結果によつて認めることができる。

そして被申請人のなした本件就学指定処分の執行により、申請人らが償うことのできない損害を蒙むるものとして主張する事実については、疏第三号証の一ないし六、同第四号証の一ないし四、申請人鈴木昌子及び加藤正之助の各審尋の結果に徴しこれを肯認することができる。従つて本件処分の執行は本案判決確定に至るまで、これを停止すべき緊急の必要があると認め、主文のとおり決定する。

(裁判官 岡咲恕一 吉村弘義 坂井智)

(別紙目録省略)

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